私が警察の予算削減に納得したわけ

ジョージ・フロイド氏が警察官の膝に首を抑えられて殺されたのが5月25日の事、今日で2週間経った。

私もこの2週間はCovid-19の心配も忘れ、ひたすらその後の展開を追いかけてきた。
当初は関わった四人の警察官の逮捕や起訴を求めていたデモの要求が、警察そのものの改革、さらにその中で #defundthepolice や #disbandthepolice #abolishthepolice といったハッシュタグで、警察組織そのものの解体や警察予算の削減を求める声が強まってきたことに首を傾げた人は、私だけではないと思う。

私自身、最初は警察官に対するトレーニングや懲罰の仕組みに問題があるので、それらを改善するためにはもっと金がかかるのではないかと思い、予算削減は違うだろうと思った。

私の考え方が変わるきっかけになったのは、ACLU(American Civil Liberty Union、公正な司法を求める有力なNPO)のポッドキャスト
を聴いたことだ。
関心がある方にはそのものを聴いていただけば良いと思うが、その中で私にとって印象に残った点は次の三点だ。
1)奴隷の監視としてはじまった警察の文化が今の警察官組合に引き継がれている。
2)犯罪の抑止にもっとも効果的なのは貧困対策、教育や雇用の機会向上による経済格差の是正であることは知られていたにも関わらず、警察・司法の予算は伸び続け、貧困・格差対策の予算は停滞し、格差は拡大し続けている。
3)検挙や摘発を中心とするproactive policing からメンタルヘルスや教育の向上などを中心とするコミュニティーベースのアプローチに変換すべき。

まず一点目の警察官組合についてだが、この文章を書くためにWikiを調べたら正式名称は Fraternal Order of Policeと言い、資本家に敵対するとみなされるunion という言葉をあえて使っていない事を知った。実際ホワイトカラー犯罪による経済損失や、大企業による規制逃れによる公害の方が、貧困層による薬物売買や窃盗などよりはるかに大きな損害を社会にもたらしているのに、警察はマイノリティーの取り締まりに集中しているとトレヴァー・ノアのデイリーショウで言っていてなるほどと思った。

アメリカの警察官組合のユニークな点は、警察官の雇用条件、懲罰、停職や免職などについて、それぞれの自治体の警察と地域の組合が交渉し、契約によって両者の合意が定められているという事だ。したがって、自治体によって、警察官の違反記録の保存期間も5年間のところもあれば1年間のところもある。

警官が懲戒の対象になれば、それは当然記録に残るのに、わずか1年間で記録が抹消されるなら、警官が懲罰の対象になる行為をやめるインセンティブは生まれないことになる。実際ここ5年間でニューヨークやシカゴといった大都市における警察官から黒人への暴力は3割ほど減っているが、ミネアポリスのように警官に有利な契約が結ばれている場合、フロイド氏を手にかけたショービンのように、18回も苦情を受けていても免職にならないわけだ。

また、白人至上主義のカルチャーが組合の中に蔓延していることも公然の秘密であり、ミネアポリス市警察官組合のトップがトランプ支持者としてラリーでもトランプに並んで壇上でスピーチをした映像も出回っている。この人物はバイカークラブのメンバーでもあり、「ホワイトパワー」のパッチのついたジャケットを身につけているそうだ。https://www.insider.com/president-minneapolis-police-union-wore-white-power-patch-lawsuit-2020-5

二点目の貧困・格差と警察・司法の予算のトレンドについては、抗議が始まった直後にガブリエル・ズックマンのツイートを引用した事がある。
https://twitter.com/Mika_Regan/status/1267846419974483969?s=20
Image



これを見ると、警察・司法の予算が伸びているのに対し、福祉の予算が減り続けている事がわかる。

以下はネットで見つけてきた国連関連機関である、欧州犯罪予防・抑止に関する研究所による2004年時点での統計だ。脚注(1

米国の2004年時点での警察活動に関する支出を見ると、GDPあたりの支出はスイスについで高い事がわかる。
米国の特異なところは、この図でもわかる通り、異常に刑務所に金を使っているという事だ。米国の司法に詳しい人であれば、黒人の収監率が特に高いこと、しかもマリファナ所持やスピード違反といった軽微な罪状で簡単に逮捕されること、しかも交通切符の罰金が払えなかったり保釈金が払えないという理由で刑務所送りになる事など、どう考えても不必要な収監が多いという事をご存知だろう。
今回のフロイド氏のように、「たまたま死に至ったから大きなニュースになった」が、そうではなく、首を膝で抑え付けられ、死ぬ代わりに軽犯罪や警察官による虚偽の報告により刑務所送りになる人がどれほど多いのか想像してみたら良いと思う。私のようなアジア人や白人が思う警察は、黒人コミュニティーに対しては全く別の姿で見えているという事、改めて気付かされている。

ここではやや余談になるが、アメリカの警察にはCivil Forfeiture (市民からの没収)という制度があり、捜査の過程で容疑者から没収した資産を、当該の警察の資金にして良いという事になっている。この制度は必ずしも有罪になっていない人の資産も没収できるため、警察による不正な没収に拍車をかけていると批判されてもいる。ここでも黒人コミュニティーが多くの場合ターゲットになっている。

警察の予算増でもう一つ問題になっているのは、警察の重武装化・軍事化である。これは80年代ごろからの傾向で長年批判されてきたが、この傾向はオバマ政権のもとでも変わらなかった。今回、平和的なデモに対してヘルメット、ショルダーパッド、盾、バトンで武装した警官が、催涙弾やゴム弾を使って、むしろ先に暴力を使うことで、挑発して暴力行為を起こさせようとしている事が見えたと思う。

また、黒人に対する暴力を防ぐべく、各地でボディカメラの装着を義務付けしたり、人種プロファイリングをやめるためのトレーニングにも予算は使われているはずだが、このような予算増が警察官の行為を変える事につながらないのはなぜだろうか。それは前段で述べた通り、奴隷制時代からのレガシーの文化が引き継がれてきた警察内部のレイシズムが根深いからだろう。

今回BLMなどが警察改革に求める内容は、警察組織そのものの解体・改組を目指す大幅なものから、予算の削減を目指すものまで、ところや人により要求の度合いは異なる。しかし、proactive policing と言われる摘発や取り締まりを中心にする警察から、敵対関係のない、信頼に基づくコミュニティーベースでの治安向上にシフトすべきだという点で意見は一致している。

これが三点目になるが、ではこのコミュニティベースの治安とはどういう形のものになるのだろうか。
ここではCNNの6月6日付の記事が短くまとまっていてわかりやすいので紹介する。

there's evidence that less policing can lead to less crime
A 2017 report, which focused on several weeks in 2014 through 2015 when the New York Police Department purposely pulled back on "proactive policing," found that there were 2,100 fewer crime complaints during that time.
「警察活動を減らせば犯罪が減るというエビデンスがある。ある2017年の報告(訳者注:Nature誌に掲載された行動科学に関する論文)によると、2014年から2015年にかけて、数週間NY市警察が意図的に「積極的な警察活動」を抑制したところ、同期間犯罪に関する苦情が2100件減ったことがわかった。」

またコミュニティー側からの通報の多くは、メンタルヘルスに関連するものが多いという。精神障害者や中毒者の異常行動は、本来は警察だけではなくメンタルヘルスの専門家とチームで対処することが理想的なはずだ。

また、ホームレス者がメンタルヘルスや中毒の問題を抱えている事も多く、住居対策も重要だ。

また黒人コミュニティーが悩むギャング関連の暴力も、教育や雇用の機会の向上によって、リクルートされる若者を減らすことができるだろう。

今まで書いてきた事が理由で、基本的にはコミュニティー支援の予算を増やす事を条件に、警察の予算削減、場合によっては解体・改組という考え方に私も賛成するようになった。これを書いている最中にも、ミネアポリス市警が、デモ参加者の車のタイヤを片っ端から切り裂いている動画がツイートで回ってきた。
https://twitter.com/MotherJones/status/1270059322806923264?s=20
こんな事をする組織は解体されても仕方がないと思われるわけだ。

この文章を読んで、趣旨に賛同しても良いと考えられた方は、以下のリンクから警察予算の削減を求める声明に署名を検討してみていただきたい。


脚注
1) WHAT DOES THE WORLD SPEND ON CRIMINAL JUSTICE? Graham Farrell and Ken Clark Graham Farrell is Professor of Criminology and Director of the Midlands Centre for Criminology at Loughborough University. Ken Clark is Senior Lecturer in the School of Economic Sciences at Manchester University.






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